2007
堀川さんに「一緒に遊びに行かないか」と誘われたので、行ってみることにした。
堀川さんが、私に恐れが何かと聞いてきた。
「ドンとの恋が冷める」
もう一度、恐れはなにかと聞いてきた。
「勇樹と一緒に遊ぶことを拒否される」
私はまだ、誰か一人に心を決められないようだ。
彼が自分のことはどう思っているか聞いてきた。
「そのカスタムヘアがすてき」
私は堀川さんの髪型が好きだ。
他に好きなところはないんだろうか、私。
しばらく話した後、近くのブティックへ。
「ちょっと服を買うのに付き合ってほしかったんだ」
と、堀川さん。
でも、私にはあまり服のセンスはない。
「これなんかどうかなぁ……」
すごい。
ハイファッションな服を着こなす彼が、うらやましい。
「晴美さんも、服を買う? 俺も見てみようか」
「いえ、私はいい……」
私に一番にあってるのは、多分今の服だと思うから。
「ところで、晴美さんの苦手なものって何?」
「筋肉……かな」
聞かれて初めて気がついた。
私も筋肉が苦手だったらしい。
これはもう、筋肉を落とすしかない、のかな。
昼過ぎ。
今度はレトロな雰囲気のレストランへ。
「晴美さん、よく旅行とかってする? 俺は仕事柄新幹線にはよく乗るんだけど、あんまり旅行はいけなくってさ」
「私も、大学卒業してからは旅行は行ってないかなぁ」
食事が来た。
私はいつものライム風えびのたたき。
堀川さんはリブだった。
「ベイクドアラスカとかはお嫌いですか?」
「甘いものは苦手なんで。でも、なんでベイクドアラスカ?」
私が付き合っている人はあなた以外、皆ベイクドアラスカが好物だったもので。
「えびだけじゃ、腹が膨れないんじゃない? 俺の食う?」
「えっ!?」
堀川さんがフォークを伸ばしてきたので、慌てて口をあける。
うーん。
こんなことをしていると、本当に私達は恋人同士みたいだ。
いや、実際恋人同士なのだが。
2007
食事の後、堀川さんがトイレに立ったので、私は野良犬を相手にして遊んだ。
この犬、飲食店に入り込んでいいのだろうか。
犬に言っても仕方がないが。
そういえば、犬といえばシドを思い出す。
私は彼に、電話した方がいいのだろうか。
堀川さんが戻ってきた。
「お待たせ。そろそろ暗くなってきたし、いつもの店、行く?」
いつもの店といったら、たぶんあそこしかないだろう。
「ラッキーシャック カード&ドリンク」
彼は本当にカードゲームが好きらしい。
トランプを切る手も鮮やかだ。
わたしはいまだに、このゲームのルールがよく分からない。
分からないなりに何とかプレイしてみるのだが。
これは、いい手が来たのかな?
よく分からないけど、一気に賭けちゃおう。
どうやら、勝ったみたい。
堀川さんは苦笑い。
カードはそんなに強い方じゃないようだ。
ひとしきりゲームをしたあと、明日の仕事が早い堀川さんは帰宅。
「それじゃあ。今日はありがとう」
「さようなら」
私は残って、バーでくつろぐ。
今夜は考えることがたくさんありそうだ。
2007
シドとデートをしてみることにした。
家で一人で考えていても、物事は進展しない。
やってきたのはゴシックグリーン広場。
静かな公園墓地だ。
確かにシドと私の相性は、とてもいい。
彼の手を握ったら、こんなにのけぞって喜んでくれた。
あ……。
泥沼決定?
少し落ち着きたくなって、公園のカードゲーム台へと行った。
まずこの状況を冷静に分析してみよう。
私はシドを好きになった。
でも、堀川さんのことも同じくらい好きだ。
ドンも好きだが、この間喧嘩をしてしまった。彼のことは今は考えまい。
さて私。
どうする?
考えていたら、シドや公園にいた人達が、カード台に集まってきた。
とりあえず皆でゲームをする。
そうだ。
私は今、シドとデート中だった。
私はゲームも上の空。
どんどん負けていく。
結局ゲームをしていたら時間切れが来て、デートは終了。
とりあえず、シドとは別れた。
そのまま家に帰る気もしなかったので、もう少しダウンタウンを一人でさまようことにする。
サンシャインパークに来た。
ベンチに座って、少し頭を冷やすことにした。
風が気持ちいい。
いたずら心を起こして、噴水にこっそり粉石けんを投入。
大丈夫。
誰も見てない。
沸き立つ泡。
泡だらけになった噴水を見に、続々人が集まってきた。
いたずらが過ぎたかもしれない。
私は慌てて公園を後にする。
2007
夜のダウンタウンをさまよって、「地下室ゼロのナイトクラブ」へとたどり着く。
今夜はここで夕食にしよう。
久しぶりの、一人でレストラン。
そんな気がする。
メニューは、大奮発してロブスターの丸焼き。
でも私、これからどうしよう。
優柔不断な自分が、ちょっと嫌になる。
欝な気分を吹っ飛ばそうと、エレクトロダンスボールに挑戦。
もちろん「激しく回る」で。
うわ……。
ちょっと回転速すぎ。
食後にすぐは、まずかったかもしれない。
ほら、やっぱり……。
あいた……。
気分なおしに一杯。
夜もだいぶ更けてきた。
でも、なんだかまだ帰る気分ではない。
結局私が行き着いた先。
それはいつもの「ラッキーシャック カード&ドリンク」
残念ながら、堀川さんの姿は見えない。
今日は来ていないか、それとももう帰ってしまったのかどっちかだろう。
もう午前0時をまわったところだ。
この店に行くと、いつもこの人がカラオケで歌っている。
常連だろうか。
何の悩みもなさそうな顔だ。
ある意味うらやましい。
歌は微妙な感じの音痴。
バーテンダーさんが耳を覆っている。
あ、お向かいのモティマーさんが来ている。
なんだか顔色が悪い。
どうやら吸血鬼にかまれたらしい。
お気の毒に……。
いくら待っても、堀川さんが来るわけでもない。
仕方なく、ダウンタウンを後にする。
家に帰ると、ダウンタウン商工会からのレストラン無料チケットが、地面に刺さっていた。
ちゃんと、ポストに入れといてほしい。
ぱんだ、ただいま。
2007
ある晩のこと。
シドが愛犬を連れて、私の家を訪ねて来た。
正直、これは困る。
シド、いきなりの熱烈キッス。
本当に困る。
私達がキスしてる時、シドの愛犬が、私のゴミ箱を破壊中。
それも困る……。
すかさずシドを振りほどいて、彼の愛犬に教育的指導。
どうも、しつけがなっていない。
シドは、甘やかしてばっかりなのかも。
そして、突然、堀川さんが電話をしてきた。
明日、一緒にダウンタウンに行かないかと言う。
私は承諾。
あの人は、絶対にデートなんて言葉を使わない。
もう考えるのは疲れた。
流れに身を任せよう。
そう思いながら、その日は就寝。
ところでシドと愛犬が、家の前で棒投げをして遊んでいるのだが……。
彼らはいつ帰ってくれるのだろう。