2007
食事の後、堀川さんがトイレに立ったので、私は野良犬を相手にして遊んだ。
この犬、飲食店に入り込んでいいのだろうか。
犬に言っても仕方がないが。
そういえば、犬といえばシドを思い出す。
私は彼に、電話した方がいいのだろうか。
堀川さんが戻ってきた。
「お待たせ。そろそろ暗くなってきたし、いつもの店、行く?」
いつもの店といったら、たぶんあそこしかないだろう。
「ラッキーシャック カード&ドリンク」
彼は本当にカードゲームが好きらしい。
トランプを切る手も鮮やかだ。
わたしはいまだに、このゲームのルールがよく分からない。
分からないなりに何とかプレイしてみるのだが。
これは、いい手が来たのかな?
よく分からないけど、一気に賭けちゃおう。
どうやら、勝ったみたい。
堀川さんは苦笑い。
カードはそんなに強い方じゃないようだ。
ひとしきりゲームをしたあと、明日の仕事が早い堀川さんは帰宅。
「それじゃあ。今日はありがとう」
「さようなら」
私は残って、バーでくつろぐ。
今夜は考えることがたくさんありそうだ。
2007
シドとデートをしてみることにした。
家で一人で考えていても、物事は進展しない。
やってきたのはゴシックグリーン広場。
静かな公園墓地だ。
確かにシドと私の相性は、とてもいい。
彼の手を握ったら、こんなにのけぞって喜んでくれた。
あ……。
泥沼決定?
少し落ち着きたくなって、公園のカードゲーム台へと行った。
まずこの状況を冷静に分析してみよう。
私はシドを好きになった。
でも、堀川さんのことも同じくらい好きだ。
ドンも好きだが、この間喧嘩をしてしまった。彼のことは今は考えまい。
さて私。
どうする?
考えていたら、シドや公園にいた人達が、カード台に集まってきた。
とりあえず皆でゲームをする。
そうだ。
私は今、シドとデート中だった。
私はゲームも上の空。
どんどん負けていく。
結局ゲームをしていたら時間切れが来て、デートは終了。
とりあえず、シドとは別れた。
そのまま家に帰る気もしなかったので、もう少しダウンタウンを一人でさまようことにする。
サンシャインパークに来た。
ベンチに座って、少し頭を冷やすことにした。
風が気持ちいい。
いたずら心を起こして、噴水にこっそり粉石けんを投入。
大丈夫。
誰も見てない。
沸き立つ泡。
泡だらけになった噴水を見に、続々人が集まってきた。
いたずらが過ぎたかもしれない。
私は慌てて公園を後にする。
2007
夜のダウンタウンをさまよって、「地下室ゼロのナイトクラブ」へとたどり着く。
今夜はここで夕食にしよう。
久しぶりの、一人でレストラン。
そんな気がする。
メニューは、大奮発してロブスターの丸焼き。
でも私、これからどうしよう。
優柔不断な自分が、ちょっと嫌になる。
欝な気分を吹っ飛ばそうと、エレクトロダンスボールに挑戦。
もちろん「激しく回る」で。
うわ……。
ちょっと回転速すぎ。
食後にすぐは、まずかったかもしれない。
ほら、やっぱり……。
あいた……。
気分なおしに一杯。
夜もだいぶ更けてきた。
でも、なんだかまだ帰る気分ではない。
結局私が行き着いた先。
それはいつもの「ラッキーシャック カード&ドリンク」
残念ながら、堀川さんの姿は見えない。
今日は来ていないか、それとももう帰ってしまったのかどっちかだろう。
もう午前0時をまわったところだ。
この店に行くと、いつもこの人がカラオケで歌っている。
常連だろうか。
何の悩みもなさそうな顔だ。
ある意味うらやましい。
歌は微妙な感じの音痴。
バーテンダーさんが耳を覆っている。
あ、お向かいのモティマーさんが来ている。
なんだか顔色が悪い。
どうやら吸血鬼にかまれたらしい。
お気の毒に……。
いくら待っても、堀川さんが来るわけでもない。
仕方なく、ダウンタウンを後にする。
家に帰ると、ダウンタウン商工会からのレストラン無料チケットが、地面に刺さっていた。
ちゃんと、ポストに入れといてほしい。
ぱんだ、ただいま。
2007
ある晩のこと。
シドが愛犬を連れて、私の家を訪ねて来た。
正直、これは困る。
シド、いきなりの熱烈キッス。
本当に困る。
私達がキスしてる時、シドの愛犬が、私のゴミ箱を破壊中。
それも困る……。
すかさずシドを振りほどいて、彼の愛犬に教育的指導。
どうも、しつけがなっていない。
シドは、甘やかしてばっかりなのかも。
そして、突然、堀川さんが電話をしてきた。
明日、一緒にダウンタウンに行かないかと言う。
私は承諾。
あの人は、絶対にデートなんて言葉を使わない。
もう考えるのは疲れた。
流れに身を任せよう。
そう思いながら、その日は就寝。
ところでシドと愛犬が、家の前で棒投げをして遊んでいるのだが……。
彼らはいつ帰ってくれるのだろう。
2007
堀川さんとダウンタウンへ来た。
まずは、彼の希望でブティックへ。
どうやら、彼が私に服を選んでくれるらしい。
地味な私に似合うのがあるだろうか。
とりあえず、彼に任せてみることにした。
服を買った後、彼が私の望みを聞いてきた。
「一緒に食事でもどうですか?」
そろそろお昼だ。
「植物ダイニング」で、昼食をとることにした。
案内された席は、トイレの隣だった。
しかも、ウエイターがなかなか注文を取りに来ない。
堀川さんは、さっきから水ばかり飲んでいる。
「あ、そうそう。晴美さんに渡すものがあるんだけど」
「なんですか」
「これ」
え!?
この小箱は……、もしかして。
婚約指輪だ。
生まれてはじめて見ました。
すごい輝きです。
「いつのまに、こんなの用意してたんですか?」
うれしさのあまり、小箱は後ろのトイレにポイしてしまいました。
そっか。
私にはやっぱり堀川さんなんだ。
その後、何事もなかったようにメニューを見る二人。
なんとなく、シドにプロポーズされても、私は承諾したような気もしないではない。
もう、いまさらだが。
私達はもくもくと食事をして、
別れた。