2007
弘美ちゃんが、他の男とデートしていたのを目撃した翌日です。
さすがに、目覚めの悪い朝を迎えた樹君。
「うー……。くそー……」
思い出すだけでも、心がかき乱されます。
相手の男性、かなた君にも怒り心頭。
しかし、樹君には弘美ちゃんの恋路を邪魔する権限なんて、これっぽっちもありません。
弘美ちゃんへの思いは、彼の一方的なもの。
つまりは、片思いでしたから。
こんなときは、ダウンタウンに出かけてナンパするのが一番です。
さっそく、かわいい女の子を発見!
「君という名の檻に閉じ込められたい……」
「はい? 昼間っから、なに寝ぼけたこと言ってるんですかー」
「……ええっと、刑務所ってこの近くにありましたっけ」
「さあ。裁判所なら知ってるけど……」
「ああ、裁判所だった! そこへぜひ、案内してもらえませんか?」
「私が? なんで?」
「あなた、ほんとに綺麗だから!」
口笛を吹いてみました。
「あははっ! お姉さんをからかっちゃいけないわよ」
好感触でしたが、相手にはしてもらえませんでした。
というより、この子、レズなんだけどね。
仕方がないので、一人で昼食。
見栄を張って、昼間っからフィレステーキ。
だから、食事中のくわえタバコはやめなさいって。
「ごっそうさん」
二口で完食。
速っ!
かわいい女の子を捜し求めて、愛の生垣迷路へとやってきました。
綺麗なお姉さん発見。
でも、向こうはこっちを見て、毛虫かなんぞを見たように身震いしてますよ?
足早に立ち去る女の人を追いかけます。
彼女、足が速いですね。
迷路だし、見失わないようにしないと。
「この近くに、おいしいパフェの店があるそうですよ」
食べ物の話で女性を釣るな。
「初めてのキスみたいに甘いんだそうです」
「あら、そうなの?」
なぜか話に乗ってくる女性。
目の前の男、明らかに不審者ですよ!
「私はもう恋をしているから、いらないわー」
さりげなく拒否される。
それでも食い下がる樹君。
本当に嫌がってますよ。
樹君、今日はここでやめときなさい。また後日電話すればいいんだから。
日が暮れてしまいました。
樹君、今日は一人も女の子をゲットできていません。
ためしにあたりを見渡してみましたが……。
光るのは年寄りばかりなり。
仕方がありません。場所を変えてみましょう。
カフェレストランにやってきました。
とりあえずコーヒーをすする樹君。
一人になって思い出されるのは、弘美ちゃんのこと。
どうして弘美ちゃんのことを考えると、いらいらしてしまうんでしょう。
結婚を夢見る彼女と、結婚だけはしたくない自分。
そんな自分は彼女と付き合うのに値しないということを、心のどこかで認めつつも、彼女との相性はかなりよかったことを知っているから。
あ、吸血鬼発見。
これは面白い、ということで早速ナンパです。
「すごい衣装ですね。お金持ちのご令嬢か何か?」
「ふふふ。まあ、そんなところかしらね」
なかなかいい感触。
調べてみたら、彼女との相性はかなり良。
嫌いなものを聞いてみた。
「体育会系はだめなの」
大丈夫。樹君は普通体型です。
好きなものを聞いてみた。
「そのくわえタバコ、いいわねぇ」
吸血鬼との相性がいいのは、くわえタバコのせいだと判明。
今後彼女と会うときは、必ずくわえタバコで会うことにしましょう。
2007
圭君達です。
この度、修太君とイリーナちゃんが家族に加わったことで、ついにバンド「フォーブラザーズ」が再結成されました。
ドラムはイリーナちゃん。
凛々しくキマッています。
キーボードは圭君のいとこ、海斗君の息子の海里君。
ベースは修太君。
こうしてみると、彼もかっこいいかも。
そして、リーダーの圭君。
再結成されたバンドの演奏を聴く圭志君。
とても満足そうです。
「これで、聡や弘や海斗にいい土産話が出来たわい」
一方の、こちらは「パブねもす」
こちらも、海里君と結婚した須々木素也君の義理の娘、彩華ちゃんが復活させてました。
昔のように、お料理を出すことはなくなりましたが、彩華ちゃん一人で経営をがんばっています。
その成果もあって、お店レベルはすぐにMaxに到達しました。
チケットマシンを使った商売がこんなに簡単にいくとは、思いもしませんでしたよ。
(でも、またいつか、お料理も出せるようになりたいなぁ)
人を雇うとまた人件費が……。
お店はこんなに大繁盛。
あ、晴美ちゃんも来てる。
今日は旦那さんは連れてないんですか?
お隣にいるのは、晴美ちゃんの甥で、佐田家翔君の息子さんです。
樹君も来てました。
どうやら今夜のお酒はちょっと苦いようですな。
まだ弘美ちゃんのことが、あきらめ切れないんでしょうか。
素也君も来てました。
復活したお店に、今度はお客さんとして。
「父さんと建てたこの店も、娘が継いでくれて本当によかった」
一時は公共区として売りに出されてましたからね。
こうして、「パブねもす」の夜は静かにふけていきます。
2007
圭君です。
バンドを再結成させた彼。
今度は自分自身の夢、「将軍になる」を叶えるために圭志君をコーチに猛特訓。
「圭ー、がんばれよー」
「ひいひい」
「思い出すなぁ。昔もこうやって、麻緒を鍛えてやったもんだよ」
「父さん! ちょっと休んでいい?」
「まだだめだ!」
「鬼~」
すてん!
「あいたたた。くそう……」
ピーッ!
「圭、何をやっとるか! もう三十周がんばれぃ!」
「ええーっ!?」
「まったく。わが息子ながら情けないのう。わしの若い頃は……。若い頃はどうだったかの……」
自分に都合の悪いことは忘れる圭志君。
圭君の家にも、生まれたての命があります。
海里君の息子、潮君です。
圭志君には、また甥。
成長した潮君は、お父さんの海里君にそっくりでした。
「まさか、潮の成長までこの目で見れるとはなぁ。海斗に自慢してやろう」
潮くんに言葉を教える圭志君。
そんな圭志君、運命の日には、たくさんの友達を呼びました。
久しぶりに彼自身もバンドに加わります。
弘美ちゃんがベースを先にとってしまったので、圭志君はドラム。
さすが圭志君。
熟練したテクニックが光ります。
そんな彼も、やがて静かにスティックを置きました。
お迎えの時間です。
「やれやれ。わしもとうとうか……」
そうして旅行かばんを手にとって、ゆるやかな天国の調べにのって、圭志君は静かに旅立っていきました。
「ううっ……。圭志叔父さん……!」
麻美ちゃんの時には、気丈にも涙を見せなかった麻緒ちゃん。
でも、このときばかりは涙です。
小さい頃から面倒を見てくれた、もう一人の父親みたいな人でしたから。
落ち込む圭君を、修太君も励まします……?
「圭。大学優等で卒業して、おめでとう」
「んあ? あ、ありがとう……」
修太、こんなときになんでその話題なんだ。
麻緒ちゃん、スティックを握って、大好きだった叔父さんにひと打ち捧げます。
圭志君も、バンドの再生やまた甥の成長を見届けて、さぞかし満足だったでしょう。
翌日、圭君達はプリーザントビューのはずれにある墓地へとやってきました。
そこに圭君は、圭志君の墓標を置きます。
海里君も、自宅に置いていた両親のお墓をしかるべき場所に設置……。
って、おい!
墓標の向きが違うったら!
まあいいや。
後できちんと置きなおすことにしましょう。
最後に皆で圭志君の冥福を祈り、墓地をあとにします。
2007
さつきの顔をよくよく見ていて、ひとつ気がついた。
この子の額、もしかして私似なんじゃないか。
瞳は勇樹さん譲りだけれど。
うーん。
やっぱりそうだ。
私に似ると、どうも表情が暗い子になってしまう。
残念だなぁ……。
まあ、仕方がないか。
私の子だもの。
勇樹さんが、新しく私の絵を描いてくれている。
完成が楽しみだ。
春日が学校から友達を連れて帰ってきた。
春日は私と違ってとても社交的だ。
これからもたくさんの友達をつくっていってくれるだろう。
さつきも、お姉ちゃんの友達に遊んでもらう。
この子もお姉ちゃんほどではないけど、社交的だ。
このへんの子供達の性格は、勇樹さん似だ。
さつきは今が一番手のかかる時期。
私が家事を終えて、ようやく寝付いたらと思ったら……。
さつきの鳴き声で真夜中に目を覚まされることも、毎日。
はいはい。
今出してあげますよ。
パパはお仕事でお疲れなんだから、そんな大声で泣いちゃだめ。
そんなさつきも、この日はとうとう誕生日。
例によって、親族一同をご招待。
私の一番上の姉が亡くなってしまったのは、残念だ。
代わりといっては何だが、シドを呼んだ。
家の中は狭かったので、外で。
皆でハッピーバースデイ。
「さつき! がんばって」
「さつきちゃん、さあ成長だ!」
皆がはやし立てる中、とうとうさつきが子供に成長!
こんな感じになりました。
このパジャマは、ちょっとひどいね。
成長したさつきは、早速お姉ちゃんと並んでお勉強。
春日は明日には十代に成長してしまうから、この子達のこんな姿を見られるのも、今のうちだけ。
明日は日曜日。
家族でお出かけするのもいいかもしれないね、勇樹さん。
「月日のたつのは早いものねぇ。あなたが結婚したのも、ついこの間だと思っていたけど」
ひとつ上の姉がしみじみと言う。
私達兄弟も、年をとったな。
両親が亡くなったことさえ、まだ昨日のことのように思えるのに。
勇樹さんが描いてくれてた絵、完成しました。
さっそくダイニングの壁に飾る。
綺麗に描いてくれて、ありがとう。
2007
子供達、朝から仲良くお人形ごっこ。
でも、春日、あなた扉にめり込んでるわよ。
今日は、子供達も連れて家族でダウンタウンに。
はじめは勇樹さんと二人きりで来ようとも思っていたけど、やっぱり皆一緒の方が楽しいよね。
やってきたのはシムボウル。
早速勇樹さんが一投目。
「うわちゃー!」
あらら。
溝に入っちゃった。
悔しそう。
私も、えい!
いまだにこのボールをうまく転がすことが出来ない。
勇樹さんに、私の投げ方はロフトボールだと言われた。
それって、よくないの?
結果は上々。
勇樹さんに勝ったぞ。
と、思ったら。
勇樹さん、二投目でストライク。
ど真ん中に行きましたね。
「よっしー!」
さすが。
普段体を鍛えているだけあって、うまい。
春日も、ボーリングに初挑戦。
ボールが重たいね。
よいしょ、よいしょ。
終始この顔。
子供用のがあればよかったんだけど。
あ!
危ない!
うわー。
痛そう。
これは泣いちゃうかな?
ところが、結果は……。
これには春日も痛いのを忘れて、にやり。
さつきも、挑戦します。
やっぱりボールが重たいね。
溝に入っちゃいました。
さつき、勇樹さんとおんなじ顔をして悔しがる。
「あーもう! また溝に落ちちゃったー!!」
怒ってる怒ってる。
「そろそろ腹減らない?」
「この辺でお昼ご飯にしようか」
「ママ! お外で食事するの、初めてだね!」
「そうだね」
子供たちも、食事に連れて行けるくらい大きくなったんだな。
それぞれ好きなものを注文。
子供達はやっぱり、ハンバーガーやマカロニチーズが好きみたい。
「ねー。ママは大学で優等生だったんでしょ」
「そうだぞ。パパは途中でやめたけど、ママは最優等で卒業したから、偉いんだぞ」
「ふーん。私も大学で優等生になれるかな」
「がんばって勉強してたら、なれるよ」
「ねーパパ。私、一回占いがやってみたい」
「何を占ってほしいんだ?」
「秘密ー」
子供達、おしゃべりに夢中で食べるのが遅くなっちゃいました。
食事の後はお買い物。
十代に成長する春日の服と、私達夫婦の老齢者用の服。
私達も、年をとる日が近いのだ。
私や勇樹さんが年をとるなんて、うそみたい。
ずっと先のことだとばかり思っていたのに。
春日が妹と写真を撮って、私達にプレゼントしてくれた。
さつきはさらに大サービス。
三点倒立までして見せてくれた。
私も春日と写真を撮る。
勇樹さんもさつきと写真。
今日は本当に楽しいお出かけになった。
さつきも十代になったら、また皆で遊びに行けたらいいな。