2007
麻美ちゃんが、朝風呂に入ったっきりなかなか出てこないので、お風呂場をちょっと覗いてみたら……。
遊んでいました。
「漕げや漕げー! よ~そろ~!」
「はっぷはっぷ。お頭~! 待って下せー!」
海賊ごっこ?
「宝島が見えたぞー! おも~か~じいっぱ~い!」
麻美ちゃんも、あまり弘美ちゃんのことを子ども扱いできませんよ!
弘美ちゃんたちは食堂で朝食。
カーラところが、なにやらものほしそうにしています。
君達のご飯はちゃんとあげてるでしょ。
さて、今回はさようなら麻美ちゃんスペシャル。
「ええ!? 私がさようなら!?」
だって仕方がないもの。
麻美ちゃんの年齢メーターが一杯になっちゃった……。
前日のように、たくさんの家族や友人達を呼びました。
弘美ちゃんは素也君とおしゃべり。
弘美ちゃん覚えているかなぁ。
赤ちゃんの頃、素也君に抱っこしてもらったことがあるんだよ。
「素直! サーボロボットと婚約したのはもう仕方がないわ! 自分の信じる道を行きなさい。幸せになってね!」
「母さん! ありがとう」
麻美ちゃん、一番心配させてくれた息子と抱擁。
「美里!」
「麻美! お互い年をとったわね。でもいつまでも私たちは親友よ」
皆と挨拶を取り交わす中、麻美ちゃんの動きがはたと止まりました。
ぴっけとおしゃべりしている弘美ちゃんを、この腕に抱こうとしていた矢先のことでした。
「ああ……。もう時間だわ……」
「お迎えが来ちゃった……」
「えっ! 嫌だよ、ママッ!!」
弘美ちゃんの悲痛な叫び。
ころも悲しげに鳴きます。
「ワオーン……!」
「やだやだ!! ママ、いっちゃやだっ!! うわぁぁぁん!!!」
すっかり子供にかえった弘美ちゃん。
泣き叫びます。
「ねぇ、せめて弘美がお嫁に行くまで……。だめ?」
「だめですよ。あなたの時間はもう尽きてしまったんです」
「ほら、もう旅の準備はできています」
「あらま! ほんと!」
「先に行ったお友達の皆さんも待っていますよ。さあ」
死神が差し出す南国ジュースを受け取った麻美ちゃん。
「色々名残惜しいけど……。仕方ないわね……」
そして旅行かばんを手に取り……、
永遠のバカンスへと旅立っていきました。
「麻緒や! 弘美や弟達を頼んだわよ!」
「にゃーん!」
カーラも長鳴きしています。
というか、死神に驚いているだけな気も……。
「麻美姉さん……」
晴美ちゃん、弘美ちゃんのこと気にかけてあげてね。
ともに親が年をとってからの子供という、あなたと似たような境遇の子だから。
一斉に出る、「死んだ」マーク。
うわっ、真っ赤!
麻緒ちゃんも静かに母の死を受け止めます。
「長女だから、私がしっかりしないと!」
かつては一児の子をもうけた仲。
素也君は麻美ちゃんの死に何を思うのでしょうか。
「あぁぁぁぁぁぁんっ!! ままぁーー!!!」
麻美ちゃんの死を受け止めきれない弘美ちゃん。
本当に大切に育てられてきましたからねぇ。
受け止めきれない人はここにも一人。
「ママーッ! うわーーん!!」
素直君、ついつい子供の頃の呼び方が出てしまいました。
一方カーラは。
なにやら圭志君に何かたくらんでいる様子だ。この顔は。
ひとしきり泣いた後、悲しみからさめる人々。
早いな、おい!
弘美ちゃんは……。
あ、放心してる。
ショックが大きすぎたか。
麻美ちゃんのお墓は、恋人の弘君の隣に設置されました。
彼女の人生には、本当にいろいろなことがありました。
生涯結婚はしなかった麻美ちゃん。
それでも四人の子供達に恵まれ、充実した人生でした。
麻美ちゃん、おやすみなさい。
「ころ~……」
「わおん」
悲しみが大きいときは、こんな風にただ黙って動物と触れ合うのがいいんです。
いっぱい泣いた後は、いっぱい食べなきゃね。
詩織さんに腕によりをかけて、おいしい夕ご飯を作ってもらいました。
麻美ちゃんの子供達も、それぞれに悲しみを癒し、
弘美ちゃんもまた、少しずつこの事実を受け入れていくのでしょう。
「私が小さい頃は、ママとよくこんな風に座って、おしゃべりをしたものです」
「そう。そうなの」
「弘美、元気出してね」
「うん……。お姉ちゃん、今日は泊まって行ってくれる?」
「いいわよ」
その日の晩は、弘美ちゃんは麻緒ちゃんと、ママのベッドで寝ました。
二人の姪を心配してか、翔君が静かに様子を見守っていました。
明日から、新しい日常が始まります……
一方その頃。
庭で三十分くらい固まっている人物が一人。
晴美ちゃん。
怖いなら、飛び込まなくてもいいんだよ!
彼女の死はかなり残念。
でも彼女は、とても幸せな人生を歩めたと思います。
圭志君はまだがんばって長生きしてくれてるので、あっちの世界でのバンド再結成はもうちょっと先になるかもしれませんー。