2007
二人の子供達が大学に行って、また私達二人だけの生活に戻った。
子供達のいない朝は、とても静か。
久しぶりに本なんて読んでみる。
勇樹さんは階下で私の絵を新しく描いてくれている。
もうじき完成みたいだ。
絵が描きあがったら、二人で出掛けようと約束している。
ぱんだや。
お前は昔からちっとも変わらないねぇ。
絵が仕上がった。
さて、そろそろ出掛ける支度をしようかな。
お風呂に入って、服を着替えて……。
用意ばんたん。
さあ、出発。
やって来たのはダウンタウンの「ミッドナイトフローズ」。
どちらかといえば、若者向きの店だ。
店のレストランで、食事にすることにする。
二人ともメニューとにらめっこ。
食べたいものは、若い頃から変わらない。
二人とも。
「わしは若い頃はああみえて、ずいぶん短気だったんだ。喧嘩なんてしょっちゅうだったよ」
「あら、意外だわ。私といるときは、一度も怒ったことないじゃない」
「怒る必要もなかったしな」
いつものメニューを頼み、私達が食事をしていると、どこかの野良犬がじっと見つめてきた。
そんなに見つめても、ご飯はあげませんよ。
「春日もさつきも、大学でいい彼氏を見つけたようよ」
「そうか。それはよかったなぁ。年頃なんだから、彼氏の一人や二人くらいいてもいいさ」
レストランには、私の姪も来ていた。
実はさつきが付き合っている男の子は、彼女の息子だ。
意外なところで縁があるものだ。
後で挨拶をしておこう。
私が姪の方に気をとられていると、勇樹さんが、
「えい!」
私のお皿からつまみ食い。
やったわね。それじゃあ私も、
「お返しよー」
つまみ食い。
「ははは。これであいこだな」
あの犬、まだいる……。
かわいそうに、おなかが空いているみたいだ。
でもここのレストランでは犬のお皿は置いてないのよね。
食事が終わったら、二人でカラオケを歌うことにしてみた。
私、カラオケは初めてかも。
歌はそんなに得意じゃないから、実はカラオケって苦手。
でも、勇樹さんは大好きみたい。
ずいぶん楽しそうだ。
勇樹さんが楽しいなら、私はそれでいいんです。
一緒に歌っていたら、だんだん声が出るようになってきた。
カラオケ、ちょっと楽しいかも。
2007
大学に行った娘たちが、もうじき帰ってくる。
私達夫婦だけの生活も、もうじき終わり。
最後にもう一度出掛けようと、二人でダウンタウンへ。
やって来たのはいつもの場所。
私達の若かりし日の原点。
「ラッキーシャック カード&ドリンク」
さあ、はじめましょう。
カラオケは苦手だけれど、カードはだいぶ好きになったわ。
私だって、カードを切るのがうまくなった。
もっとも、勝負の腕の方は相変わらずだけど。
カードが配られて、勇樹さんにんまり。
いい手が来たの?
それとも、かく乱作戦かしら。
バーにはこのおばあさんが来ていた。
私が若い頃に会ったときと、全然変わっていない。
いつも一人でいるけど、だんなさんはいないんだろうか。
テーブルの中央に、どんどんチップが積み上げられていく。
私も、今回は自信あり。
思い切って手持ちのほとんどを賭けてみた。
これで負けたら馬鹿みたい。
すると、あらあら。
私の両側の二人がリタイヤして、勇樹さんとの一騎打ちに。
それじゃあ、せーのでお互い見せあいましょう。
私の手。
クラブのエースとクラブの5。
勇樹さんの手。
ダイヤの4とスペードの10。
私の勝ちです。
賭け事って、勝った瞬間がたまらない。
でも、今夜はこれまでにして、そろそろ帰りましょうか。
あら、勝ち逃げするつもりはないんだけど、ね。
さつきが大学から帰ってきたら、一緒に暮らすことになる。
彼女はお婿さんもつれて帰ってくるようだから、もう少し大きな家に引っ越すことになった。
この家とも、じきにお別れだ。
思えば私が大学を卒業して以来、ずっとここに住み続けていたことになる。
引越しを機に、新しい人生の出発。
私達夫婦もセカンドライフを楽しみにしよう。
2007
娘達がそれぞれお婿さんを連れて、大学から帰ってきた。
そして今日は娘達の結婚の日。
プリーザントビューのはずれにある教会で、式を挙げることになった。
ところで春日。
お婿さんをお姫様抱っこ。
この子は、いつの間にこんなにたくましくなったんだろうか。
彼女は結婚したら、お婿さんの実家で暮らすことになっている。
ちょっと寂しいかな。
式の時間が近づいて、招待客が集まりだした。
娘の親族や、大学の友人達だ。
お客さんの中には、お互いに喧嘩する人も。
仲の悪い二人を招待してしまったらしい。
二人の娘達。
いつの間に、結婚するような年頃になったことだろう。
私は一番前の席に座ったが、勇樹さんは一番後ろの席に座った。
娘の近くにいると、泣いちゃいそうだからって。
まずはお姉さんの春日から。
お婿さん、緊張しているのかしら。
それとも、思い思いの格好に正装したゲスト達が、気になるのかしら。
私は、気になる。
外が騒がしいと思ったら、どうやら仲の悪い二人が喧嘩を始めたらしい。
この人たちは、結婚式のために呼ばれたのを、すっかり忘れているようだ。
春日は終始、喜びではちきれんばかりに微笑んでいる。
外の喧嘩をよそに、式は進行していく。
娘の苗字が、堀川から須々木に代わった瞬間。
おめでとう、春日。
これからも、お婿さんや姑さんと仲良くね。
こちらからも、拍手拍手。
続いて、さつきの結婚式。
さつきは、緊張してないみたい。
しかし、式場で枕たたきを始めた人が。
最近の若い人は、集中力がなくていけない。
先ほど式を挙げた春日は、今度はさつきの結婚式の参列者として椅子に座る。
外で喧嘩をしていた二人も、ようやく中に入ってきたようだ。
このお嬢さんの顔を見るに、彼女は喧嘩に負けたのかしら。
ずいぶん悔しそうだ。
いけない、いけない。
今はさつきの結婚式の最中だった。
見るとまさに指輪交換の真っ最中。
まずはさつきから。
次にお婿さんから。
彼は、私達の家にお婿に来てもらうことになる。
私の姪の弘美ちゃんが、ピアノを演奏して二人を祝福してくれた。
そういえば彼女の旦那さんからこの間、電話があったけど。
家出したとか何とか。
何があったんだろう。
式が終わったら、上階に移動して披露宴。
今度はさつきが先に、ウエディングケーキを切る。
ちゃんとフォークを使って、食べさせてあげた。
さて、次は春日。
お婿さんも抱っこするたくましい彼女は、ケーキを素手でわしづかみ。
「もがっ、もがっ!」
お婿さんの口に無理やり詰め込みました。
まあ、一体誰に似たのかしら。
二人とも楽しそう。
春日はお婿さんを尻にひきそうだ。
こちらは仲良く並んで。
それにしても、ケーキを食べてるさつきの目が、意味もなく怖い。
強面になっちゃったのは、私の額が遺伝しちゃったからね。
春日もそうだけど。
豪快な春日。
ケーキを食べた後は、パパと枕たたきです。
今日の結婚式は、本当に楽しかった。
春日もさつきも、末永くお幸せに。
私達夫婦も、あなた達の暮らしを見守る幸せに、恵まれたことだわ。
2007
新しい我が家。
一階が主に生活スペース。
2階は寝室。
小さなお家だけど、住み心地はいい。
これくらいの広さなら、私一人でもお掃除できるしね。
季節は秋。
庭のもみじが綺麗。
お婿さんの夏君を連れて、さつきが我が家に帰ってきた。
夏君は、私の甥の子供。
ひょんなところで縁があるものだ。
「僕、ミュージシャンで生計を立てようと思っているんです」
夢は大きい方がいいわね。
さつきも職を探していたから、二人に子供ができるときになったら、私は副料理長の仕事を引退しようかと思っている。
新しい家で大はしゃぎしているのは、新婚さんの二人より、私達の方かもしれない。
「私達ももう年だから、病気には気をつけなくちゃね」
「一度レントゲンなんかも撮って、健康診断を受けた方がいいな」
健康には気を使わなきゃ。
私達、孫のお世話もしなくちゃいけなくなるだろうから。
翌朝。
朝食をとっていたさつきが、突然トイレにダッシュ。
あらまあ、おめでたね。
楽しみだわ。
お庭のもみじがはらはら落ちて、私は庭掃除。
こんなに集めました。
ちょっと、遊んでみようかな?
えい、えい。
落ち葉って、なんだかくすぐったいわね。
そーら、そーら。
落ち葉の中へ、ダイブ!
あはは。
埋もれちゃいました。
ひとしきり遊んだ後は、やれやれ、また掃き直し!
私ったら、子供みたいね。
さあ、燃やしてしまいましょう。
あら。
ちょっと火勢が……。
幸い風向きがよくて、火事にはならなかった。
今度から、気をつけたほうがいいわね。
お庭掃除が終わったら、今度はトイレ掃除。
妊婦さんがいるから、トイレがすぐに汚れてしまう。
さつきのつわりは、ひどいみたい。
新しいお家に新しい家族。
ぱんだ、その人はさつきのお婿さんよ。
仲良くしてあげてね。
またもみじがたくさん落ちていた。
今度は勇樹さんがお掃除。
さつきのおなかが、大きくなりました。
これでつらい時期は過ぎたわね。
夜はさつきの妊娠報告もかねて、夏君の両親、つまりは私の甥夫婦を家に招待して、夕食です。
明日の天気はどうかしら。
勇樹さんとお出かけする予定だから、晴れてくれるとうれしいな。
2007
さあ、今日は朝から勇樹さんとお出かけ。
いつもならダウンタウンに行くところだけど、プリーザントビュー近郊にだって、いい場所はたくさんある。
やって来たのはスケート場。
季節が季節だから、ローラースケートです。
勇樹さん、気持ちよく滑ってる。
私は。
あいたた……。
いきなり転んでしまった。
と、勇樹さんも転んだ。
怪我はなかったかしら?
二人同時に、おっとっとー!
転んだ!
さすがに、私達は今の年を考えた方がいいみたい。
危ない遊びは、ここまでにしましょう。
次にやって来たのは、ウッドランドパーク。
公園の池には、魚がいっぱい。
今日の晩御飯を、釣ることにしましょうか。
勇樹さん、さあ競争よ。
のんびりおしゃべりをしながら釣り糸をたれていたら、私の竿が引いた!
私が最初に釣りました!
これで今日は、ボウズなんてことはないわね。
「それはオオクチバスだよ」
それって、おいしいの?
おいしいといいな。
魚がつれて、調子に乗っていたら。
足を滑らせて転んでしまった。
転ぶのは、ローラースケートでもうたくさん!
おや、今度は勇樹さんが何か釣ったよう。
これは大きい!
「釣り勝負は、わしの勝ちだな」
そうみたいね。残念!
それにしても大きなお魚。
家族四人で食べても、まだあまりそう。
「さあ、この辺で帰ろうか」
待って。
私、もう一匹釣ったわ。
私も釣っちゃった!
大きなオオクチバス!!
一週間分の食料になりそうよ。